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EDMR (トラウマ治療に使われている眼球運動)から学ぶヨガ

EDMRという眼球運動を活用したトラウマ治療法をご存知でしょうか。

眼球の左右運動を取り入れたセラピーですが、これによって気分が楽になるメカニズムから、ヨガの学びがまた深まる気がします。

うつやトラウマとは「選択肢がないと思い込んでしまうこと」と言われます。
まさにPTSDでは、衝撃的な出来事において嫌な記憶だけが孤立してフリーズした状態となり、脳裏に新鮮に残り続けてしまう。そこに焦点が当たるとわっと嫌な気持ちが広がるというのが病理の状態なそうです。

あまり深刻ではない例で説明すると、例えば子供を叱りつけて怒りがおさまらないとき、腹が立った状況のことばかりが頭をめぐり、その時の子供の言い分や、状況を想定する余裕などなく、いつもの子供の愛らしさなどは思い出されても来ない。

そこで、眼球を左右に動かしていくと、その嫌な記憶だけではなく、周辺や時間の情報がほかにも思い出されて見えてくる、そうして孤立した記憶がほかの記憶とつながってくると、たとえ嫌なことではあっても、「普通の記憶」として処理されていくことができるという。

あ、この子の立場ではどうしようもなかったのかな。この子一生懸命謝っているな。いつもは頑張り屋さんで優しい子だよな、などの記憶がよみがえってくれば、これまで甚大な悪行におもえていたことが「たかがおこられること」として過ぎ去っていけるわけです。でもたいがい、これができないからいつまでも立ち止まってしまう。

つまり、脳内で孤立していた嫌な記憶を、ほかの記憶とつなげて通常の記憶のメカニズムに戻していく手助けをするのが、脳に直結する感覚組織である「眼」なのです。

「嫌な記憶が、例えば家族から愛された記憶、失敗を乗り越えた記憶など、過去の明るい思い出とつながっていく。悪いことばかりだと思っていたけど、そうじゃなかった、いいこともあった、ということを思い出せるようになっていく、ということは、その人の人生に、もともと現在の危機を乗り越える力を持っていた、ということなのです。

それが、辛い出来事があると、まさに眼の動きが止まってしまう。視野が狭くなってしまう。眼が据わってしまう。他を見ようとしなくなってしまう。全体を見る余裕がなくなってしまう。

ヨガでは、全体を見る大切さを説いていますが、それは1つの側面からしか物事を見ない危険性をもといているわけです。吸う息と吐く息があるように、物事にはいろんな見方があること。体の動きが止まってしまったら、あるいは偏ってしまったら、1つの側面だけが、感情の中に居座ってしまう。それが執着や先入観をうみ、自由さを奪ってしまう。

だから、眼球を動かすことによって、脳を自由にしてあげよう、というのがEDMRというソリューションなのです。実はこれは、アメリカの退役軍人さんたちへのリハビリヨガでもアイヨガとして、本格的なEDMRほど専門的なアプローチではないにせよ、実用化がはかられています。ヨガでは眼だけではなく、呼吸も身体もバランスよく動かしていくことで、人生を全体としてとらえることを助け、フリーズしていた記憶を、そのほかの人生のよき思い出とつなげていくのを助けようとします。

そこで思うのが、世の中にはどんどんよきアプローチが生まれ、そのメカニズムも解明されてきている。それはとても喜ばしいことだけど、それについて学ぶこと、それを素晴らしいと賞賛することと、必要としている人ができるような環境を作ること、届けること、維持することは、また別問題だということです。いい療法はたくさんあるのです。でも、問題はそれを必要としている人が、それをできるかどうか、ということなのです。

ダイエットや健康法だって、結局やるかやらないかがほとんどなのです。やれば効果が出るものはたくさんあります。簡単にできる!というアプローチが好まれる傾向にありますが、簡単なメソッドも百花繚乱です。ヨガだっていいものだということがちゃんと知られてはきています。
たとえば、病院や介護施設にヨガを導入しようとしたとき、それを安定して届ける仕組みがきちんとできておらず、現場のスタッフの人が導入によって以前より仕事量が増えてしまった、と感じてしまったたり、難易度の高いヨガを押し付けて、結局挫折感だけが残ってしまったとしたら、どんなにヨガがいいものだ、と主張したとしてもその声は届かずに終わってしまうことでしょう。

夫婦喧嘩をして、頭から湯気を立てているご夫婦に、だれが「さあ落ち着いて、眼を左右に動かせば、冷静になって、相手の立場や状況が見直せてくるから」と声をかけることができるでしょうか。
私なんかも、頭に血が上っているときは「お願い、誰か私の腕をつかんで、横たわらせて、深呼吸の誘導をしてください」と思ったりするわけです。ストレスアウトしている介護職の皆さんにヨガがいいものだとお勧めしたくても、これ以上仕事を増やすわけにはいかないのです。往々にして、いくらいいものであっても必要としている人に届くことは珍しいのではないかと思います。

メディカルヨガを日本国民の医療費削減、医療制度充実のための補完代替療法として根付かせていくために、ヨガはいいものだ、と声高に叫んでいく段階はもう熟したのではないかと思っています。いいものを社会で活かしていくためには独りよがりではだめで、それを「産業」のなかにしっかり組み込んでいく必要があります。それは、ビジネスとしてお金儲けをしていくということではなく、需要と供給がそこにしっかりうまれ、それに応えられるような仕組みをつくっていくこと。もっというと、ヨガを補完代替療法として届けるインストラクターのプロフェッショナリズムかしっかり確立され、提供する付加価値に対する報酬が支払われること。プロフェッショナリズムの確立とは、それで生計を立てられるような職業になるということ。

医療や介護の現場でヨガを導入してもらうのは容易ではありません。
だからこそ、実績をつくっていく必要があります。
うまくいかなかった問題点を改善し、どうやったら導入でき、現場の皆さんに喜んでもらえたか。
ヨガは難しくも怪しくもなく、患者さんや高齢者の方の心と身体の癒しに無理なく効果があった、と思ってもらえるか。
それには、あそこの病院でもできたのだから、うちでもやってみようかな。あそこの施設でできたのだから、うちでも、という事例がないとなかなか自らリスクをとって挑戦する医療機関はまだまだ少ないでしょう。だからこそ、今、高齢者の方や患者さんの喜ぶ顔をみたいとボランティアとしてヨガを届けてくださっている先生方の地道な取り組みが本当にありがたいと思います。それが、近い将来ちゃんと報われるように、きちんと説明ができ、共感をしてもらえるような資料をつくっていきたいと思っています。小さくてもいいので、しっかりとしたムーブメントをつくっていくことで、それに共感してくれるプレーヤーも増えてくるのではないかと思っています。
メディカルヨガはいいものだから、取り入れない方がおかしい、という態度ではなく、いいものをどうやったら取り入れてもらえるか、という働きかけが産業づくりなのだと思います。どうしてもヨガを好きな人は、ヨガを理解してくれる仲間内でヨガのよさを確認し合う傾向にあるような気がします。私たちが好きなヨガって素敵だよね、と。でもヨガのよさがわかる人にヨガのよさをわかってもらっても、その先は限られてしまうのです。ヨガに縁がない人にもヨガのよさをわかってもらうこと、その努力が必要なのだと思います。

ビジネススクール時代、先端技術投資を学びたくて、シリコンバレーでスタートアップが生まれ、育つ仕組みについて研究しました。今、それとはまったく違う畑にいるわけですが、私の夢は、メディカルヨガが日本において必要とされる一大産業になることです。

適切な例ではないかもしれませんが、シリコンバレーでは、素晴らしいアイデアに皆が協力してくれるように、その仕組みづくりを提案するわけです。これに関与しないと後悔するよ!というように。投資したかったらさせてあげるよ、というぐらいの勢いです。私たちはメディカルヨガをそれぐらい魅力的に見せていかなくてはいけないのではないかと思うのです。

私にはビジネスのセンスも統率力もないわけですが、そして今はまだ自分の目の前にいる息子と主人、お腹の子と向き合うのにいっぱいいっぱいの状況ですが、どうやったらその夢を叶えられるか、産休、育児休暇中の時間を使って考え続けたいと思っています。

このコラムで書きたかったのは、EDMRに学ぶ「全体をつないでいく仕組みの修復の大切さ:悪いところばかりに眼がいくとフリーズしてしまう、人生いいこともあったはず、それを思い出せるように眼を動かして記憶をつなぎなおしていこう」だったはずなのですが、いつの間にか「ヨガをはじめ、世の中にはいい療法はたくさん存在する。だけどそれがいいことをわかってもらうことよりこれから必要なのは、そのいいものを受け入れてもらえ、届けてもらえるような仕組みづくりではないか。いいものであっても、いいものとわかっていても、それを使えるかどうかは別問題だ」というテーマにうつってしまいました。

私の文章力の拙さにつける薬があったらどなたか下さいませ・・・
お読みいただきありがとうございました。


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