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成功のトリック

シリコンバレー関連の仕事をしていたとき、公私ともにお世話になった方がお亡くなりになった。その方の最後のコラムにとても大切なことを最後まで教えていただいた。

それは、クレイトン・クリステンセン教授の「イノベーション・オブ・ライフ」という本についてである。原題は「How will you measure your life?」であり、ハーバード大学経営学大学院(以下“HBS”と略)を卒業して社会に巣立つ学生に送る最終講義として、2010年の春に講演した内容をまとめたものだそうだ。クレイトン・クリステンセン教授は「イノベーションのジレンマ」という新しい学説を発表して一躍有名になったハーバードビジネススクールの教授だ。
この本は経営学を解説した本ではない。教授がハーバードやオックスフォード大学の学生を観察していたところ、卒業時までは立派な人生を歩んでいたのに、社会に出てから人生を踏み外す人があまりにも多かったそうなのだ。そして本書はHBS(ハーバードビジネススクール)を卒業した学生が“幸せな”人生を送るための「指南書」となっている。

なぜ輝かしい経歴とは裏腹に私生活は破綻し、孤独な人生を送ることになってしまう人が少なくないのか。教授の人間観察による原因の推測はこうだ。エリートとして優秀な成績をおさめ、自分の望む職を手に入れた人々は、たいがいが強い「達成動機」を持っている。彼らに共通しているのは、昇進、昇給、ボーナスなど見返りが今すぐ得られるものには時間と労力を優先的に配分するが、すぐに見返りが得られないものには労力を惜しむ傾向があることだ。家族への投資は見返りの少ない投資と考えられ、時間、お金、努力をかけずに済まそうとする傾向がある。もちろんお金で解決しようとすることもある。これらが積もり積もれば、私生活は間違いなく破綻する。

家族への時間の投資は、子どもの成長段階に応じて、その年代らしい接し方が求められる。いつか仕事が一段落したときにまとめて投資をする、ということができない性格のものなのだ。結婚相手への投資も、男性であれば妻が子育てで忙しいときに負担を分かち合っておかなければ、自分が暇になった時にまとめて補おうとしても、残るのは「今さら」という恨みだけだろう。信頼する友人との時間の過ごし方も、日頃から関係を維持しておくことが重要であり「今度、いつか」の連続では表面だけの付き合いになってしまう。

立派なキャリアを築いていくことは人生を成功させるうえで極めて重要なことではあるが、夫や父となった以上、ましてや神様や産まれたばかりの我が子の前で誓った以上、「夫として」「父として」絶えず家族に貢献していかないと、キャリアの足を引っ張りかねないほどの破綻がやってくる。独身を貫くのでなければキャリアと家庭の両方にバランス良く時間と労力を配分することがどうしても必要になってくる。成功している人の中で刑務所に行く人と行かない人の違いを分けているのは何か、それは成功を確実にするために、「たった一度ぐらいいいだろう」と安易に考えてしまうところだという。スポーツ選手のステロイド疑惑、証券のインサイダー取引、粉飾決算隠蔽工作、新聞記者の特ダネ捏造などはほとんどが「エリートに魔が差した」事件だ。

さらに教授は病に倒れ、思っていたより早く人生の最期を迎えるかもしれないという重大な岐路に立ち、自分の人生をいかに評価するかという設問に回答を出そうとした。教授にとっての自らの人生を評価する物差しは、関わりを持った一人ひとりがより良い人間になるように助けたか否かだ、と結論付けている。そして学生たちにも次のようにアドバイスをしている。人生を評価する物差しについて早めに考えておきなさい。そして、最後になって自分の人生は成功だったと評価できるように、今から毎日を大切に生きなさい。

以上のことを教えていただいたコラムでした。

ビジネススクールでファイナンス、中でもプライベートエクイティを学び、投資や投資銀行に興味を持った。世界の仕組みとして、投資銀行の役割というものは理解できたが、自分の仕事ではないと決断した。それでもやはり、新規技術投資の世界に足を踏み入れ、技術の将来性やリターンについて仕事をした。やがてヨガと出会わなければ「今に心を払う」や「マインドフルネス」について考えるきっかけも持てずにいたかもしれない。今、家族を持ってわかるのは、投資というもののトリックだ。いや、トリックではなく、私たちが見落としている視点というだけかもしれない。それは、私たちの命や今の生活はこのまま続いていくはずだ、と錯覚してしまうことだ。そうではないのだ。本来は投資だってそうだ。日々、変わりゆく環境をチェックしながら適応していかなくてはならない。それがヨガの教え「Practice」毎日を大切に生き、呼吸を大切にし、自分の心や体、他人に心を配ること、なのではないか、と思っている。呼吸への投資は、見返りがないように思われる。だからこそ、毎日心を配ることが大切であり、やがて心と身体の健康に大きな差を生むということを教えてもらえる機会は少ない。

私も、まだ自分の人生を評価する物差しがわかりません。だけど、この機会に考えておきたい、と思いました。

安藤氏のご冥福をお祈りするとともに、生前の氏から受けたご親切、薫陶に感謝するばかりです。


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