【隠れた被害者】
産後女性のうつや、産後の夫婦クライシスによって影響を被るのは当人たちだけではないということを忘れてはなりません。
生まれて間もない子供達は夫婦の姿を見て成長します。
残念なことに、生後2年の間に離婚を選択する夫婦の割合がとても高いのです。
新婚の頃はあんなに可愛かった妻が、なんでこんなに自分を見下すのだ!?
疲れとでエスカレートする女性の要求を飲める男性などいるはずがありません。妻に当たり散らされる男性の、心休まる場所はありません。産後2年間、女性の神経過敏によるイライラのはけ口にならざるを得ない、男性もある意味「産後クライシスの被害者」の一人です。問題は男性が頑張っていないからではありません。男性の頑張り以上に女性が頑張っている、あるいは頑張らなくては、と気を張っている気持ちを満足させることがとても難しいからです。
そしてもっとかわいそうなのは、大人の都合に振り回される、あるいは、ひどい場合には「はけ口」にされる子供たちです。
子供が生まれる、新しい家族が増える、それがわかった時に、多かれ少なかれ夫婦は「協力して子育てをしようね」「笑顔の絶えない家庭を作ろうね」という初心を持っていたはずです。だけど、その初心はどこに行ってしまったのでしょうか。妻の情緒不安定と疲れで、いとも簡単に吹き飛んでしまうのは、初心が弱いからではありません。情緒不安定と疲労が、それほどまでに強いという動かぬ証拠なのです。
最愛の子供たちにどんな夫婦の姿を見せたいですか。ともに尊敬しあい、支え合い、補い合える夫婦。だけど、どんなに子供たちがかわいいと思っていても、妻の心がみるみる夫から離れていく姿を子供たちは目の当たりにします。僕はお父さんとお母さんの愛の結晶だったんじゃないの?
忘れてはならないのは、子供達の脳はまだ発展途上段階にある ということです。両親の罵り合う姿は、子供達の感情脳、原始脳に「恐怖」「辛いこと」としてインプットされます。感情脳に記憶されたネガティブな感情は、一旦は記憶の引き出しの奥深くにしまわれることになります。しかしこの負の遺産は、疲労や薬物、アルコールなどで、感情のコントロールをつかさどる脳の機能が低下した時に、いとも簡単にその鍵を打ち破り、トラウマとして外に出てくる準備ができているということです。自分が同じように大人になったときの、親になることの価値観に大きく影響を与えることでしょう。
【理解のための啓蒙と休息ケアを】
産後クライシスは、どちらにも原因があるのだと思いますが、どちらもきっと悪くないのです。
男性には、女性ホルモンも、疲れも、緊張も、きっと理解できないことでしょう。出産後、育児中の母親は弱音を吐けないぐらい追い詰められているのです。だからこそ、そこに泣き寝入りではなく対策の余地があるように思います。
家庭の崩壊を本気で防ぎたいと思ったら、男性ができることは気遣いができるようになるとか、記念日に花束を送ることだけではないということを肝に銘じましょう。疲れているときは、機嫌がよくいることは難しいのです。
だけどもしお母さんに1日たっぷりお休みをあげて、マッサージをして筋肉の緊張をほぐしたり、ぐっすりとお昼寝をさせてあげれば、また頑張れる状態にもっていけるかもしれないのです。つまりレジリエンシーが少し回復した状態です。
【いいと思っても我慢してしまう】
高齢者の方にヨガを伝えるうえでの一番の難しさは「まず始めてもらうこと、体験してもらうこと」そして「続けてもらうこと」だというお話をよくしますが、それと同じように、産後のお母さんをヨガ教室に連れて行くこともそう簡単なことではありません。
子連れOKのヨガクラスは本当にありがたいと思います。だけど大概の場合、子供を預けてヨガクラスに参加しようとすれば、託児代の方がヨガそのものよりも高くなることすらあります。いい預け先が見つかったとしても、そこに大泣きする我が子を預け、ヨガ教室に向かい、ピックアップする、その労力は実際にやってみないとわからないかもしれませんが、簡単なことのように見えてとても高いハードルをまたぐような行為です。
そんな面倒をするぐらいなら、ヨガぐらい我慢するわ、となってしまっても全く不思議ではないのです。
【戦略的に時間と予算を確保する】
お金と時間を確保できる方は、60分のマッサージと昼寝。手っ取り早いこの方法でずいぶんな変化を見込めるお母さんはたくさんいると思います。
各ご家庭で、妊娠、出産予算の中から、産後2年間のお母さんの心と体の衛生を保つ予算を確保することは難しいでしょうか。
子宮やホルモンの状態がしっかり回復し安定するまでのに年間、月に一回マッサージにいく枠を家族でしっかり確保してあげることができるとしたら、子供を預かりヨガやストレッチ教室に通える体制を整えてあげられるとしたら、家の中の太陽であるお母さんの顔が、疲れで曇ってきたとしても、きっとまた元気なお母さんに戻り、家族を暖かく照らしてくれることでしょう。
だけど実際は、お母さんは心身ともに疲れ果て、家族に当たり散らしているのです。それはお母さんのSOSだといっても、当たられてからでは、助けたい気持になれるわけがありません。
本人も鎧をかぶるのです。絶え間ない緊張や時間に追われることで、ストレスに囚われた人は「身動き」ができなくなります。休みなよ、と促したところで「私大丈夫だから」と。代わってあげるよ、といっても「私じゃなきゃダメだから」
強がる、無理をする、甘えられない、どれも緊張で凝り固まった人の執着という名の特徴です。
その魔法を解けるのは、周りの人、あるいは何かのきっかけ、行かなくざるを得ない理由などがあることです。
【更年期:しっかり救出してもらうための事前戦略】
女性は、産後だけでなく、もう一山しんどいのがやってきます。そう、更年期です。更年期に心と体が頑なになってしまった女性たちも、同じようにSOSを出せないことでしょう。
辛すぎて、主人にわかってもらえるはずがない。
そう、わかってもらえるはずはないかもしれない。だけど、そこのところは理解して、あえて対策を打ちたいと思います。それは、
「辛くなった時、私はきっとSOSを出せないから、だけどそれは私が大丈夫だからではなくて、辛すぎて出せないできるだけだから、どうかそれを今のうちに理解して、おかしいな、と思ったら強制的にクレーンに乗せてでも、マッサージやリフレッシュ、ヨガなどに「強制送還」してください。」と今のうちに頼んでおくことです。自分の足で訪ねられないほど、疲れている可能性をあらかじめ伝えておくのです。
だけど、ご主人のヨガに対する理解、というものもまた一つのハードルであることが確かです。今のうちに「ヨガをすれば私はリフレッシュできるから」ということをアピールしておきましょう。あるいは、ヨガでなくてもいいかもしれません。私はこれをすれば自分を取り戻せる、あるいは、緊張から解放される、体が楽になる、心が楽になる、というものを見える化して伝えておきましょう。そうじゃないと、男性は何をやったらいいのか、わからないのです。
【夫婦の危機:鍵は解決ではなく観察】
うまくいっているご夫婦を見ていると、ご主人がうまくそれをやっているような気がします。
それは、ご主人が奥様のことを善悪の判断、評価ではなく、優しい眼差しで「観察している」ということです。
禅の言葉で、マインドフルネス、といいます。
奥様にとってとても嬉しいのは、解決ではなく、理解です。
一緒に家族を築いていこうよ、と誓ったご主人が、自分のことを気にかけてくれることは具体的な援助よりもはるかにとても嬉しいのです。
だけど、費用対効果を長い目で考えた時、やはり考慮していきたいのは「セルフケア」の重要性だと思います。
自分で自分に慈悲の気持ちを持ち、チャージができること。
あるいは、チャージさせてくださいと甘えられること。
チャージさえできれば、また頑張れることがほとんどなのです。
チャージさせてくださいと甘えられる夫婦関係。
自分の辛さへの理解を求め、理解されていると実感できること。
言い古された言葉かもしれませんが、男性は解決を提供しようとし、女性は理解が欲しいのです。女性の勝手かもしれませんが、王子様に言って欲しいセリフは「君のことを理解したい。君が何が好きで、何が嫌いで、何に夢中か。僕が誰よりも君のことを理解していたい。」ではないでしょうか。
まとめに入ります。
(ア)母親学級の段階で、女性ホルモンは産後2年は不安定であることをご夫婦でしっかり理解しておくこと。知っていれば「来たな」と楽しめる可能性もあるかもしれない。家族で客観視できることもあるかもしれない。家族の誰もがお母さんのイライラを客観視できないから大変なのです。
産んだら終わりではなく、男性にとって新たな試練の始まりになりうることを自覚している男性が少なすぎるのは、啓蒙支援が行き届いていないから。
(イ)それでもあまりに妻が情緒不安定な時は、あらためて女性ホルモンの数値を検査してみましょう。自分は、妻は、女性ホルモンが不安定なんだ、ということが自覚できるだけで、自分を客観的に見られるようになり、楽になるかもしれません。
そのことを夫婦で知ることで、産後2年間はホルモンの嵐が続くということを理解できるかもしれません。
産後二年間は見かけではわからないけど、情緒が安定し難いから、少し多めに見てね、という話もできるのではないでしょうか。
(ウ)妻は朝方を心掛けるべし
働く女性は、眠る時間を削ってでも自分の時間を捻出しがちです。
そのときも、とにかく朝型を優先にすること。
夜の時間を削っていいことは何一つありません。
そして、セルフケアの習慣を。亜鉛、鉄、ビタミンB群も含め、自分は大丈夫、ではなく、過保護なくらいいたわってあげましょう。
(エ)新米パパのことは学生アルバイトだと思う。
妊娠、出産を経験していないパパは、自身の体を通じた実感なくいきなり父になります。やる気だけは十分な学生アルバイトのようなものです。勝手がわからないのにただ怒られては、頑張る気持ちも喪失してしまいます。出産後はお母さんが家庭のC.O.O.(Chief Operating Officer ) 最高執行責任者です。ちゃんと具体的な指示を出せば、やる気のある学生アルバイトさんはよく働いてくれます。指示の出し方が悪いのかもしれません。もちろん、自分でやった方が早いことでしょう。だけど、長い目で励まし、育てていくのができる上司であることを忘れずに。
(オ)男性は女性が休める環境作りを。女性がPMSや情緒不安定に振り回されながらも、無理ができる生き物だという理解をしておきましょう。魔法の言葉「少しは一人の時間を作ってあげようと思うんだけど」あるいは、子供の頃の原風景を聞き出し、こころのふるさとに連れて行ってあげるべし。
いつかもう少し文章を整理したいと思いますが、助産師さんやご主人が、産後クライシスの大きな背景に「慢性疲労」と「低下した自己肯定感」があることを理解してくださり、出産後のケアの現場や、各ご家庭でお母さんをサポートする仕組みづくりが始まっていけば嬉しく思います。
疲労をとり、自己肯定感を取り戻すにはヨガはとてもいいですよ、ということを伝えるのに、こんなに長くなってしまいました。読みにくい文章で申し訳ありませんでした。