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2013年乳癌学会で、40分間の大きな一歩

2013年6月27-29日に浜松にて行われた乳癌学会で、東海大学の新倉医師の講演に続き、乳がんのリハビリとしてのヨガをご紹介いただく機会をいただきました。この企画はノバルティスファーマで本当に長い時間をかけて企画を通していただき、多くの方々のご支援があり実現したものです。先生のご講演と私の実技あわせ実に40分の小さな一歩でしたが、乳癌と向き合う方々に向けてヨガという選択肢を初めてご紹介させていただけた、大きな一歩だったのではないか、と感慨深く感じております。実現に向けご尽力いただきましたすべてのみなさま、そしてご参加いただきましたみなさまに心より御礼を申し上げます。

簡単ではございますが、実技にてみなさまにお伝えしたかった内容を記させていただきます。ポーズなどにつきましてはすべてカバーできておりませんが、お許しください。

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肩の力を抜いてみましょう。
両腕を胸の前でクロスして肩に乗せ、鼻から息を吸いながら肩をすくめてみます。今度は、鼻から息を吐き出しながら、肩をストンと落としていきます。

このポーズは、ヨガでいう「鷲のポーズ」の簡略形です。
みなさまがイメージされているのは、こういう「体が柔らかい人のためのヨガ」ではないでしょうか。
そして、今日この場にお越しいただき、新倉先生に「乳癌とヨガの可能性」についてお話しいただいたところでさえも「ヨガって何だろう」と思っているのではないでしょうか。

高齢者の方々など、ヨガをまったく知らない人に、ヨガを伝えるときに私なりに理解してもらえているかも、と思う言い回しは「ヨガってね、共存共栄ということ」「ヨガって喧嘩両成敗ってこと」です。
ヨガの語源は「つなぐ、むすぶ」という意味です。何をつなぐのか。

胸の前で手を合わせてみてください。ヨガでよくみかけるポーズかと思いますが、これは右手は自分の中の清らかな部分、自分が愛せるものなど、対して左手は、自分の中で目を背けたいところ、自分が苦手なもの、など、でも、ここにいらしているみなさんも、どちらもお持ちだと思います。人生は矛盾と葛藤だらけで、いいことばかりではないけど、意外と悪いことだけでもない。

ヨガが結ぶのは、人生の酸いも甘いもです。呼吸に吸って吐いてがあるように、人生にもいいことわるいこと両方ありです。正しい、正しくないの犯人探しはちょっとお休みして、ちょっといい加減になって、自分に寛容になりましょう、というのがヨガのメッセージです。

そうなれていないとき、私たちの呼吸はきまって早く浅いのです。
新倉先生が、ヨガとストレッチの違いを「そこに呼吸があるか」「そこにメンタルのケアがあるか」というお話をしてくださいました。まさに、ヨガというものは、ポーズの正しさではないのです。ポーズをとりながら、呼吸に意識を向けたり、呼吸が深くゆっくりとなるように導けるかどうかなのです。

さて、実際にきっとみなさまがお知りになりたいことについてお話ししたいと思います。
乳癌の患者さんがしては行けないことは2つあります。

ひとつは、腕に著しい負荷をかけない、ということです。ヨガが乳癌によいからといって、ヨガ教室に行って、定番のポーズだからといって、下向きの犬のポーズや四つん這いのポーズをするのは危険なのです。でも、これらのポーズは、壁や椅子に手を置いて、腕への負担を軽減したり、椅子に座って腕に負荷をかけないような形で行うことが可能なのです。

では、乳癌の方にお勧めしたいポーズは何か、というと、

(1) 不定愁訴を取り除くポーズ(首、背中、腰の凝りを解消しましょう)
(2) 腕の可動域を広げていくポーズ(自身を取り戻していくため)
(3) 足腰を鍛えていくポーズ(社会復帰のため)

です。

猫背になってみてください。深くゆっくりとした呼吸、できますか?落ち込んでいるときはできません。呼吸が浅いときは、ぐっすり眠れないのです。

猫背のまま、おへその奥に力を入れてみようとしてください。力、入りません。どんなに人から頑張れ頑張れいわれても、自分で自分を追い込もうとしても、やる気が出てこないのは、本人のせいではなく、丸まった背中の性なのです。だから、無理のない方法で、まず姿勢を戻していくアプローチが必要です。

不定愁訴で特に多い頭痛ですが、インドのヨガセラピーのアプローチをご紹介させてください。
インドでは、これは実際「包帯」で行うのですが、きっと日本の乳癌の患者さんで頭に包帯を巻いてほしい人はいないと思います。女性は一枚ぐらい素敵なスカーフをもっていると思います。スカーフで目のまわりをぐるっとまいて、少しきつめに縛ります。そして、スカーフを緩めると、頭は刺激から弛緩をへて、弛みます。緊張性頭痛を緩和する、アイラップというアプローチです。

また、片鼻呼吸法も、インドで伝統的に伝わっているやり方を、このように変えてみてください。じゃんけんぽんの、田舎っぺチョキ(人差し指と親指だけのチョキ)です。右手でこのチョキを作って、右手の親指で右の鼻の穴をふさぎます。左の鼻から息を吸って、指を切り替えます。右の鼻から吐いて、右の鼻からすって、指を切り替えて、左の鼻から吐いていきます。この呼吸法、たとえ、順番や指を切り替えるタイミングを間違えたとしても、気にしないでくださいと伝えてください。

病気に取り組んでいる方は、まじめな方が多く、自分が間違ってしまったのではないか、ということをとても気にされます。ヨガができることは、もう少し楽をしてもらうこと、つまり、隙のない毎日に、ちょっとぐらい、すきをつくろうよ、適当で大丈夫だよ、気持ちよければ細かいことは気にしない、というメッセージです。

おなかに枕を乗せて、自分の呼吸によるおなかの動きを、否が応でも意識してしまう、というのもいい呼吸法です。

足腰を鍛えた方がいいのは、治療の間、いままでもっていた筋肉がどんどん落ちていくことで、外に出て行く気力がなえてしまうという患者さんが多いからです。特に、足の内側の筋肉が落ちていきます。ですので、足の内側を鍛えていくような簡単な動きに取り組んでもらうことで、もしかしたらいままであきらめていた社会復帰をしたい、という前向きな気持ちが育まれていくかもしれません。

腕の可動域をあげていくリハビリも、自分の呼吸にあわせて行えると「やらされている」から「自分の身体の声を聴いていく」行為に変わっていきます。(壁や椅子を使った犬のポーズの説明:割愛をお許しください)

自律神経失調症ににた症状を更に悪化させるのは、首の前後の緊張です。これは、やはり落ち込みによる姿勢の悪さが首のポジションに負担をかけ、様々な不定愁訴に追い討ちをかけていると思われます。背骨や骨盤を正しい一に導く動きをすることで、必要ない不定愁訴を予防できるかもしれません。(椅子に座ったCat & Cow のポーズ、説明の割愛をお許しください)

これまで、いろいろポーズを紹介してきましたが、ヨガセラピーで一番多い誤解が「どのポーズが効くのだろう」ということです。ヨガの効果があるとすれば、いろんなことに無心で取り組んで、結果「効果を期待することなく、自分の身体や内面に意識を向けられるようになる」そのことが、薬になるのではないでしょうか。

そのことを体感いただくために、簡単なアイヨガをやってみましょうか。
手のひらを軽くこすりあわせ、そっと目の上に置きます。
みなさん、この時点で、何が効くのか、何がいいのか悪いのか、なんて考えていないと思います。考えているとすれば、あたためた手のひらを目の上に置いてみると、あったかくて気持ちいいなー、ということぐらいだと思います。そういう時間を患者さんに作ってあげてほしいんですね。

きっと、大きなご病気をされている方は、自分を責めてしまったり、何がよくて何が悪かったんだろう、と犯人探しをしてしまったり、自分に厳しすぎる方が多いのではないかと思います。
ヨガができることは、繰り返しになりますが、自分への寛容さを育むことです。呼吸が浅く速ければ、自分にも他人にも寛容になれません。ストレッチだけでなく、そこに深くゆっくりとした呼吸を伴わせることで、善悪の判断をすることなく、世の中のいろいろな葛藤矛盾を受け入れられる緩やかさ、バランスを取り戻していくこと。善悪の判断をすることなく、とにかく自分と仲良くしてほしいと思います。今生きていることが、善悪なく、唯一の答えです。

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ここまで今日の講演のことをまとめながらも、自分自身が抱えている問題はなかなか解決できていないことに目が向きます。でも、観察をすることによって自分はいかにどんなに多くの人に支えてもらっているのか、ということを思い出すことができます。余裕がないとまず自己観察などできませんし、失礼ながらもそれを思い出せません。ヨガをすることによって、呼吸を深めることによって可能になるのは、自分の辛さや不安を素直に認められるようになること、自分を支えてくれている人に素直に感謝できるようになること、ではないでしょうか。

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新倉先生が、21世紀型の医療のあり方は、最先端の医療技術、最先端の製薬技術の力に助けられながらも、人類4000年の叡智に助けられていく、というお話をしてくださいました。
ヨガの古い教典にも、世界に産み出される価値は「多様なるものが調和することで生まれる」という一節があります。実際の講義ではこんなまとめ方ができたわけではありませんが、今日ご参加いただいたみなさまには、ヨガがとてもハードルの高いものではなく、気持ちよくからだを動かしながらそこに呼吸を伴い、教えなくてはならないと気構えず、一緒にヨガを楽しみましょう、という心持ちで患者さんたちの毎日にヨガという選択肢をもたらしてみていただければと思います。今日お渡ししたパンフレット(日経ヘルス:2013年4月号52ページ:ー)には特に乳癌の患者さんが著しく気をつけなくてはいけないポーズはありません。くれぐれも薬と同じで飲み過ぎはよくありません。やり過ぎることなく、気持ちいいなあと思っていただける範囲内で楽しんでいただければと思います。


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