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乳がんヨガとQOL

【QOLの尺度を知る】

がん患者向けQOLとして一般的に使われる尺度として

(1)がんにおけるQOL 

QOL-ACD(Quality of Life Questionnaire for Cancer Patients Treated with Anticancer Drugs)

日本独自の文 化や習慣に合致したがん特異的尺度を開発することを目的として作成された 22 項目からなる QOL 調査票

質問項目は臨床的妥当性を勘 案して「活動性」「身体状況」「精神・心理状態」「社会性」

「全体的な QOL」の 5 下位尺度から構成されている。

各質問項目とも 5 段階で評定され,QOL が最も悪い と思われるほうを 1 点,最も良いと思われるほうを 5 点とし,最低は22点,最高は110点となる。

(2)乳がんにおけるQOL 

QOL-ACD-B(Quality of Life Questionnaire for Cancer Patients Treated with Anticancer Drugs for Breast Cancer)

QOL-ACD に追加して用いることを前提として乳がん 患者用の QOL 尺度として開発されたもの

「身体症状・疼痛」「医療に対する満足感と病気に対するコーピング」「治療による副作用「」服装・性的側面・ その他「」母性(50 歳以下対象のオプション)」の計 21 項目からなり,各質問項目とも 5 段階で評定される.

があります。

つまり、乳がん患者さんのQOLは「活動性」「身体状況」「精神・心理状態」「社会性」

「全体的な QOL」プラス「身体症状・疼痛」「医療に対する満足感と病気に対するコーピング」「治療による副作用「」服装・性的側面・ その他「」母性(50 歳以下対象のオプション)」において総合的に判断されています。

また、ASCOが乳がんの統合医療ガイドラインを承認し、ヨガはうつ病および気分障害の治療に有効(推奨グレードA) であるとされています。*4

【患者さんがヨガに求め来るもの】

ヨガの介入により、QOLのどの項目に影響が強く出ているかの分析はまだまだ不十分ですが、ここからはBCY Institute Japanに乳がん患者さん向けのヨガを学びに来る方からのフィードバックをもとにお話しさせていただきます。

乳がんヨガに参加される患者さんからの声としては、運動をした効果や身体的な楽さではなく

「ここに来るとほっとできる」「ここにくると本音が言える」「できることはまだまだあるような気がする」というものが多いわけです。

もしそうであれば、心理カウンセラーの先生のところに行くのが手っ取り早いはずですが、ヨガクラスにそのような息抜きを求めて来てくださる方が少なくありません。

ヨガクラスに来て、自分の呼吸や、身体への意識を通じて、自分の身体を動かしながら受け入れて行く。特に、首や肩の緊張に気づき、緊張している自分を受け入れて行くことから始めて行く。身体、という実態のあるものを自分自身で確認することで、バーチャルなデータではなくリアルな自分ごとというものをスタート時点にすることができます。

BCYのインストラクターによるクラスでは、ヨガにおいてどんなポーズができるか、ということよりも、そのポーズとともに今という時間に溶け込むことに誘導する力に重きをおいています。

また、参加者は体の調子、心の調子、バイオリズムに波があります。毎回、テンションも違いますし、ヨガへの参加経験なども異なる方が集まります。

そんなとき「元気出しましょうよ」や「明るくいきましょう」と声がけをするのではなく、あえて「今日のありのままの自分の気分を受け止めることから始めましょう」とお伝えしています。

がん患者さんの心理的ケアの必要性は、長い間言われていますが、ダイレクトに「メンタルケア」「心のケア」の提供から始めてしまうと、構えてしまう患者さんが少なくないようです。

自分の身体、という目に見えるものを動かして見ることで、視点が変わったり、しがみついていたことから離れられたり、活気が湧いてきたりすることは、誰にも経験があると思います。

さらにそこに、良い呼吸法を行うことによって、気分の落ち着きを取り戻す効果もあります。

さらに、ヨガの最後に必ず行うリラックスのポーズは「私はもっと、楽をして良いのだ」という肯定感をもたらします。何かが間違っていたから、歪みがあったから、それを矯正しなくてはならない、という考え方ではなく、今の自分が自分にできる最善なことを積み重ねていく、という点で、アドラー心理学の考え方にも似ているかもしれません。

【ピアカウンセリングの究極形】

BCYの講座では、知識のインプット・アウトプットよりも、がん患者さんの生の声に耳を傾けることを大切にしています。指導にあたる講師の大半が、自ら乳がんを経験しています。経験していない講師は、患者さんやご家族との対話や、書籍を通じ「ヨガの指導者として、自分はどうあれば良いのか。」ということを、共感をキーワードに熟考する時間を大切にしています。それによって、ヨガのクラスをボディワークを伴ったピアカウンセリングの究極形として提供することを目指しています。

前述したQOL尺度には「精神・心理状態」「社会性」「医療に対する満足感と病気に対するコーピング」というものがあります。ヨガクラスへの参加を通じ、健康情報よりも自分の感覚を信じるようになった、という声も聞かれます。それは、治療を否定する、ということではなく、むしろ医療者を信じ、治療に前向きに取り組む態度にもつながります。自分が今できることがあるという自信は、治療のその先にある日常生活や、就労にも影響を与えます。

また、患者さんが感じる「孤独」についても、ヨガクラスへの参加は気のおけない仲間との出会いを得られるというだけではありません。自分自身が感じる孤独といったんしっかり向き合うことにより孤独感をつながりへの希望に変えていけるようになった、というお声も良く聞きます。

また、BCYには、ターミナル期の患者さんへのプライベートセッションを担当している講師もいます。クラスのオンライン化が進むことにより、クラスに足を運ぶことが難しくなった患者さんをフォローできる期間も長くなったといいます。

【保険診療の適応外:臨床可能性「低」】

海外では、ヨガを臨床で活用するためのエビデンスが蓄積されています*3が、繰り返しになりますが、日本においてサバイバー期のリハビリテーション治療は、保険診療の適応外になるため、実施可能な医療機関は少なく現状では臨床可能性が低いとされ、ガイドラインでは「弱い推奨」にとどまっています。一方で、多くの患者が行うことを希望すると考えらるとも述べられています。

そのためにも、BCY Institute Japanは乳がん患者特有の身体的な障害や症状に配慮し、医療機関の外で受けられる運動療法の一つの選択肢として、安全なヨガクラスの普及・提供に取り組んでいきます。

*1 https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0268/G0001129

*2 https://www.cochrane.org/ja/CD010802/BREASTCA_ru-yan-tozhen-duan-saretanu-xing-niokeruyoga

*3 https://core.ac.uk/reader/229882912 

*4https://www.cancerit.jp/60546.html


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