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産後ケアとマタニティヨガへの想い

産後ケアを知らずに母親になる

「知られていないということは存在していないも同じ」とはよく言われますが、産後ケアを提供している人がたくさんいるのに、必要な人に届いていない背景として、まず「産後ケア」という概念が知られていないことがあると思います。

私は乳がん患者さん向けのヨガの普及にも取り組んでいるのですが、いつも「必要としている人にどうか届きますように」と願っています。それほど、現実には「存在していても届かない」という難しさがあります。

産後は知っていてもアクセスできない

産後ケアがあっても、アクセスできない現実があります。育児が始まると、お母さんの世界は途端に狭まります。一人目出産はもちろんですが、二人目、三人目でも生後の生活は小さな命を守ることに必死、あっという間に余裕がなくなることには変わりありません。

産後の情報インプットには限界があると感じています。テストのようですが出産前にある程度「傾向と対策」で産後の生活を想定しておくことが必要なのではないか、と思います。

私自身も、どうして母になる練習をしてから母にならなかったのだろう、と思った時期がありました。お母さんも一緒に成長していく、と周りは励ましてくれますが、知っておくこと、想定しておくことで防げた辛さはあったように思います。

両親学級を変えたい

妊娠がわかってから出産までの10ヶ月はあっという間です。定期的な両親学級で教えてもらうことは、夫婦ともに産後のハード面(おしめ替え、沐浴)などがメインです。

両親学級で、陣痛の時のテニスボールのあてかたなどを教えてもらうよりも、産後のお母さんの生活や、体力、メンタルがどのように変化し、多くのお母さんがどんなSOSを出しているのか、ということを夫婦で考え、それぞれの家庭なりの対策を立てらる機会が欲しいです。先輩のお母さんのお話は、もしかしたら専門家の話よりもずっと参考になるかもしれません。

マタニティヨガクラスで妊娠中からの産後ケア

一般社団法人日本ヨガメディカル協会でマタニティヨガの先生を育成しています。講座を貫く理念は「安産のためのマタニティヨガではなく、産後ライフをしっかり休む練習としてのマタニティヨガ」です。
マタニティヨガに限らず、産後ケアが、お母さんにとっての回復の場であってほしい、と願います。
多くのお母さんが、お母さんになって頑張ろう!と思っている、けれど現実は心身共に電池切れになってしまう。そんな自分に自己嫌悪になってしまう。だけど問題は、回復するチャンスがないことです。24時間営業、年中無休です。体も疲れますが、心も疲れます。人間として自分の時間を確保する時間がありません。一方で、本人に悪気はないものの、飲み会に行ったり、息抜きをしている父親を見るとやるせない不公平を感じました。

お母さんにも休日を。それが産後ケアの狙いだと思っています。残念ながら日本には、お母さんが自分に時間やお金をかけることは贅沢だ、という風潮が未だ残っています。しかし、科学的にも経済的にもそれは不合理だということを広めていかなくてはならないと思います。お母さんの疲れに子供は敏感です。

 

お母さんを感じている子供時代

子供の脳波について知ると、子供に接する時に必要なのは理屈ではなく、雰囲気であるということがわかります。

脳波には大きくわけて、以下の4つがあります。

  • デルタ(δ)波: 熟睡しているとき
  • シータ(θ)波: 寝る直前のまどろんでいるとき
  • アルファ(α)波:目を閉じてリラックスしているとき
  • ベータ(β)波: 覚醒しているとき

子どもは新生児期から学童期へと至る過程で成長時期に応じて優勢な周波数帯域が変化します。生まれたばかりの赤ちゃんは寝てばかりいますが、脳波も眠っているときに出るデルタ波が主体です。

その後、生後1年頃より、まどろみのシータ波が主体になります。3~5歳頃でシータ波からアルファ波に変わっていき、自我が芽生える10歳頃ではシータ波が減ります。勉強などに積極的に取り組めるようになるのは、実はβ波がしっかり出るようになってからと言われています。このように、脳波は覚醒やリラックスの度合いによって変化する指標です。
大人でもシータ波が出ている状態はうとうととまどろんでおり、意識の働きが弱くなり、潜在意識(無意識)に働きかけやすいタイミングと言われています。眠りの浅い状態で、催眠状態のような暗示にかかりやすくなっている状態です。母親に産後ケアが必要といわれている0~3歳の乳幼児期はシータ波が優勢であり、理屈よりも感覚で物事は捉えられ、催眠状態のように潜在意識に入り込み、記憶に定着しやすいのです。

赤ちゃんには理屈が通用するべくもなく、お母さんが笑ったり、歌ったり、抱きしめてくれるという肌感覚が世界の全てなのです。

発達心理学で知る子供の側からの需要

また、エリクソンの発達心理学も興味深いことを教えてくれます。
子供の発達の段階で、生まれてから1.5歳までに培われる感覚は「世界や人間を信じられるか?」ということです。自我が芽生え出す3歳までには「自分の意思は受け入れられるか?」ということです。

そんな時に、目の前のお母さんが疲れ果て、余裕がなく、寛容さを欠いていたらどうでしょう。母親が一人の人間として幸福感を持ち、安定した心理であることなしに、子供との安定した関係や、寛容的な態度は不可能です。

マタニティヨガで事前訓練をしてほしい

マタニティヨガの指導を通じ、お母さんに伝えていることは「ヨガは自分を大切にし、休むことを後ろめたく思わないための練習」である、ということです。繰り返しになりますが、日本では休むことに対する罪悪感が根強く残っています。しかし出産後、果てしない長距離走に挑むお母さんにとっての最重要課題は、笑顔でいることです。
休むことは、お母さんにとって、権利でもあり「義務」でもあります。
休むために、充電するために、頼れるものを頼るための練習が必要です。なぜなら、私たちはそれを教えられずに大人になっているから。
そのために、マタニティヨガのクラスでは、あえて椅子を使います。
椅子は、妊婦さんの安全を守るためだけではありません。疲れたら、頼っていいのだ、休んでいいのだ、ということを、妊娠中から身をもって感じ取って欲しいのです。
最初は、皆さん、ためらわれます。自分は一番後回しで良い、という感覚が染み付いています。

ヨガのクラスだけでなく、ほとんどのご夫婦が出産前に参加される両親学級でしっかりと伝えてほしいことは、産後の現実と、家族や社会によるサポート、具体的なケアの必要性です。産後は、体も、心も一杯一杯でSOSで当たり前。ホルモンの不安定さがそれを援護射撃します。本来、新しい命を育もうとしている姿は美しく、神々しくさえあるのに、サポートも余裕もなければ時間とともに疲弊していく一方です。

今、産後のお母さんにどんなケアがあるか、と聞かれ答えられる人は限られていると思います。でも、実はたくさんのケアラーさんが手を差し伸べたいと、活動しています。

順番を間違えがちな産後

マタニティヨガのクラスでいつもする話があります。
仕事、家族、自分のどれに時間を使っていますか?
仕事が大切でないわけではない、だけど私たちは往々にしていつも自分が最後。でも、そうすると結局全てがうまく回らないことが多いのではないでしょうか。仕事をするのも自分、家族と接する主体も自分です。
同じように、赤ちゃん、ご主人、自分で考えてみましょう。
赤ちゃんが大切でないわけではありません。
ただ、忘れてはならないのは赤ちゃんを育てるのはほかでもないお母さん、そしてお父さんです。残念なことに共に子育てをするはずのお父さんの存在が忘れ去られていることもあります。
まずは、お母さんが元気で夫婦の仲が良いことが大切です。だって、子供たちにとってはしばらくの間、お父さんとお母さんが世界のほぼ全てなのですから。

しかし、現実は本当に難しい。余裕のないお母さんがSOSを出せないのが今の日本の現状です。

母子手帳とともに母手帳を

私の考えでは、母子手帳とは別に、お母さんの手帳が必要だと思います。母子手帳には、お母さんの心と体の問題を記入するところがありますが、何となく子供のおまけのような感じです。そうではなく、お母さんの心と体のケアをメインとしたノートのプレゼントをしてほしい。
さらにそこに、警告も兼ねて、日本の現実を記すのはどうでしょうか。

日本は産後のケアを受けられるという認識が諸外国に比べ浸透していないということ。私たちの世代から、妊娠は病気ではない、という風潮に負けないようにしよう、ということ。病気ではないかもしれないけれど、命がけで産んで、命がけで育てていき、産後は超長距離走と心得るべきであること。お母さんは自分のためにもっと時間を使って良い!なぜならその方が、子供に良い影響を与えるから。ケアすることこそ、急がば回れ、につながるということ。

その手帳とともに、地域で利用できる産後ケアのイエローページのようなものを、各自治体で作成いただけたらと思います。まだまだ産後ケアというサービス自体が知られていませんが、独自に取り組みを始めている自治体もあります。

そして、一人でも多くのお母さんが、赤ちゃんを守るために自分を大切にする必要性を知ってほしい、その周りのサポート体制が社会に根付いてほしい、と願っています。

マタニティヨガを学び、伝えてほしい、産後ケアを知ってほしい

産前産後のサポートをしたいという様々な職種の方々がつながり始めています。

【みんなで考える産後ケア】

グループでは現在も参加者を募集されています。グループURLをクリックいただき、簡単なアンケートにお答えいただきますと入会手続き完了です。

私も知り合いの女医さんからご紹介をいただき参加しています。

産前産後ケアに関わっている方はもちろんのこと、産後のお母さんやご家族の力になりたい方、ぜひ一緒に、産後のお母さんのサポートに本当に必要なことを考えていきませんか?

私自身は、出産前のマタニティヨガを通じ、予防的な取り組みとしての啓発活動、具体的なリラクセーション法を学べる機会を創出していきたいと考えています。


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